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現代
5




「え、いつ………?」

食べる箸を止めて、恐る恐る母を見据える。発表から3日後に引っ越しをさせられた前例が頭を過る。

「ん?そうねえ。アンタが高校入学すると同時に、かな」

なんだその曖昧な返しは、などと思う暇もなく、それじゃあ高校は別の地域で通うことになるのかと漠然と考えた。

「だからアンタもそのつもりで、受験校を選びなさいね」

それだけ言うと、母はむしゃむしゃと食べることに集中し出した。そんな母の姿を呆然と見ながら、俺はこれからのことについて頭を働かせた。

いつも突然ではあったが、今回は受験もある分、母なりに気を使って早めにアナウンスしてくれたのだろう。流石に高校という人生を決める大きなターニングポイントを前に、騙し討ちみたいに転校させることはないらしい。

まだ漠然としか進路のことを考えてはいなかったが良いきっかけだし、そろそろ志望校も決めないといけないな。
でも、そうかまた転校か………。
いや、でも高校入学同時に引っ越すのなら転校とは言わないか。ってあれ、引っ越すってことは…………自称宇宙人と別れる?

転校という一大イベントに眩んで、すっかり忘れていた。引っ越すということは、自称宇宙人とも離れ離れになってしまうのだ。
その事実を自覚して、俺は激しく狼狽えた。再びの引っ越しを聞いたときよりも格段と。

ーーーあいつは俺がいなくなっても、一人でやっていけるのだろうか?

最早親心並に自称宇宙人の行く末を心配した俺は、どうにか俺が引っ越すことになる中学卒業までに、自称宇宙人に俺以外の友人を作ろうと画策した。

少し前までは、自称宇宙人の友人は自分だけであると自負し、内心誇らしく、自慢げに思っていた。しかし‘’引っ越さなければならない‘’という事実に、そんな俺の高慢たる考えは捨て去る必要があった。

俺がいなくなっても自称宇宙人が寂しくないようにーーー果たしてあいつが寂しがるかは甚だ謎ではあるが、俺以外に友だちを作らせないといけない。そんな決意を胸に、俺は今日も何とか自称宇宙人と他の人を絡ませようと躍起になっていた。

しかしながら、これといった成果が出ない。それもそのはず、全く自称宇宙人が協力的ではなかったからだ。

親の心子知らずとはよく言ったものだと、自称宇宙人の親でもないくせに、図々しくもそんなことを思ってしまう。一体何とかならないものかと頭を捻っても、思うような答えは思いつかない。元より、自称宇宙人に俺以外に友達を持とうという気概がないのが悪いのだ。

いや、友達を作らせるというコンセプトが悪いのかもしれない。自称宇宙人の唯一の友達と自負している俺でさえ、自称宇宙人にとっては“友達”ではないのかもしれない。彼にとって俺はただの“地球人の観察対象”でしかないのかもしれない。そう考えると些か悲しいものがあるが、それも仕方ない。

どうにか彼にとっての“地球人の観察対象”を増やすことができれば、この問題は解決する筈だ。

自称宇宙人とクラスメートの女子生徒との交流計画を失敗させた俺は、その日の放課後の帰り道でドストレートに自称宇宙人に“地球人の観察対象”の増員を要望してみた。

「一人で十分だと思うけど」

俺の要望はズバッと一刀両断に切り捨てられた。見事なまでにきっぱりとした却下ではあったが、ここで引く訳にはいかない。

「いや、でもさ、ずっと俺ばかり観察したところで、地球人のデータとしては層が薄くないか?」

俺の必死な説得の言葉に、自称宇宙人は口を塞ぎ、真剣な顔で考え始めた。恐らく今、自称宇宙人の頭の中では“地球人の観察対象”を増やした場合の損得の利率を、独自に編み出した方程式で導き出しているのだろう。 





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あきゅろす。
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